通常、問題行動のある犬は一般家庭に譲渡されることはありません。2週間後に殺処分が決定していた柴犬が見せた変化は「咬傷犬」や「殺処分」について考えさせられるものなのではないでしょうか。
ドッグトレーナーから1本の連絡
これは『大吉』くんと大吉くんをお迎えした女性のお話です。
女性は先輩ドッグトレーナーからの連絡で、2週間後に殺処分を控えた柴犬の存在を知りました。
大吉くんはまだ若く、トレーニングによって行動が変わる可能性があるのではないか、保護できる可能性があるのではないか、と先輩ドッグトレーナーは考えたのです。
連絡を受けた女性は4日後に愛護センターを訪れました。
そこにいたのは、飼い主から「咬傷犬」として持ち込まれた大吉くん。職員にも咬みついたことで犬歯が削られていたと言います。
大吉くんは激しく吠えたて、柵に体当たりを繰り返す。1時間以上もそんな状態が続きました。
疲れはてた大吉くんは落ち着きを取り戻します。
それだけで判断することは難しいと感じた女性は、大吉くんが一番信頼している職員との関わり方や、ほかの人に対する攻撃性を見るために柵から出してもらうことに。
するとどうでしょう。職員から普通におやつをもらい、距離さえ保っていれば吠えることも攻撃してくることもない普通の犬でした。
女性は大吉くんが普通の犬と一緒で、不安や恐怖から攻撃しているだけだとわかり、大吉くんを迎えることに決めたのです。
2ヶ月間体に触ることができなかった
女性の家には先住犬がいましたが、大吉くんは先住犬に先制攻撃を仕掛けたそうです。
大吉くん専用スペースに入れられると、今度は一晩中クンクンと鳴いている大吉くん。環境の変化についていけず、翌朝にはお腹まで壊してしまいました。
体に触ることはできず、2ヶ月もの間ハーネスとリードはつけたままの生活となりました。
散歩の経験もあまりなかった大吉くんは、車のクラクションや電車、サイレンの音を聞くと恐怖から脱糞し、自分のしっぽに噛みつくという行動も。
女性はそんな大吉くんとの関係で、大吉くんを尊重することを一番に考えました。
大吉くんが心を開き、自分から寄ってきてくれるようになるまでは、散歩やご飯、排泄といった必要最低限だけに徹底したのです。
変化
そんな生活を送っているうちに、大吉くんに変化が現れます。
先制攻撃を仕掛け、顔を見るたびに攻撃しようとしていた先住犬に対して、徐々にそばにいたがるようになり、人間にもしっぽを振って後をついてくる姿が…。
ある日、女性が娘さんと一緒に先住犬とベッドの上でじゃれて遊んでいると、その様子を部屋の入り口でじっと見ていた大吉くんがベッドの上に飛び乗り、一緒に遊びだしたのです。
そして、女性の前の前で初めてお腹を見せてくれる行動も。
大吉くんにとって、とても勇気が必要なことだったでしょう。一方で、ずっとこうされたかったのかもしれません。
それからの大吉くんは、とっても甘えん坊に変貌したそうです。
キッチンでは先住犬と一緒になって、おとなしくおこぼれを待つ様子も。
社会化期をきちんと経験していない大吉くんは、まだまだ学ぶことがたくさんあります。
女性とその家族以外の人は苦手、先住犬以外の犬は苦手、鈴の音が苦手、長い棒状のものが苦手、など、苦手なものはたくさんあり、パニックになってしまうこともありますが、1つ1つ物事ができるようになり、苦手なものも少しずつ克服する。
それでいいのだと女性は語ります。
最後に…
大吉くんは今、とっても幸せな日々をすごしています。この眩しい笑顔を見れば、毎日が充実していることがよくわかるのではないでしょうか。
通常では譲渡されることなく、殺処分されてしまうのが飼い主持ち込みの咬傷犬です。こうして幸せを掴むことができた大吉くんは本当に幸運ですね。
殺処分されてしまう犬がいなくなる日を願わずにはいられません。