眠れない夜の味方!?「羊を数える」という不思議な習慣
「羊が一匹…羊が二匹…」
布団の中で何度もつぶやいたことがある人も多いのではないでしょうか。眠れない時の対処法として、世界中で親しまれているこの方法。ふと考えてみると、なぜ羊なのか不思議ですよね。動物の王様ライオンでも、かわいい子犬でもなく、なぜ羊を数えることになったのでしょうか。
この謎を紐解くには、まず歴史を遡る必要があります。実は、私たちが知っているような形で「羊を数える」という習慣が広まったのは、それほど古いことではないのです。
意外と新しい?羊を数える習慣の本当の始まり
多くの人は、この習慣が英語圏で生まれたと思っているかもしれません。確かに、英語の「sheep(羊)」と「sleep(睡眠)」の発音が似ていることから、そう考えるのは自然なことです。
しかし、実はこの習慣のルーツは、はるか昔のイスラム文化圏にまで遡ります。12世紀のスペイン…当時はイスラム教国家の支配下にあった地域で書かれた『聖職者の訓練』という書物に、すでに「羊を数える」という記述が登場していたのです。
この本の著者であるペトルス・アルフォンシは、元々ユダヤ教徒でしたが、後にキリスト教に改宗し、ヨーロッパ各地を旅して回りました。彼の著書に記された「羊を数える」という習慣は、彼の旅と共にヨーロッパ中に広がっていったと考えられています。
さらに面白いことに、17世紀に入ると、スペインの作家セルバンテスの『ドン・キホーテ』には「山羊を数える」という記述が登場します。どうやら、動物は必ずしも羊である必要はなかったようですね。
なぜ世界中で「羊」が選ばれたのか?3つの理由
それでは、なぜ最終的に「羊」が世界標準として定着したのでしょうか。その理由は主に3つあると言われています。
1つ目は、すでに触れた「言葉の響き」です。英語圏での「sheep」と「sleep」の類似性は、この習慣の普及に大きく貢献しました。英語が国際共通語として広がるにつれ、この習慣も世界中に広まっていったのです。
2つ目は、羊そのものが持つイメージです。のんびりと草を食む羊の姿は、心を落ち着かせる効果があると考えられていました。特に欧米では、牧場で群れをなす羊の姿は、穏やかな田園風景の象徴として親しまれていました。
3つ目は、羊の群れの特徴です。羊は群れで行動する習性があり、一列に並んで移動する姿は、まるで数を数えているかのように見えます。この光景は、私たちが心の中で羊を数えることの視覚的なイメージと相性が良かったのでしょう。
羊を数えても効果がないって本当?
実は、この長年親しまれてきた「羊を数える」という方法、あまり効果がないという研究結果が出ています。2012年に行われた研究では、羊を数える群と、ゆっくりと腹式呼吸を行う群を比較したところ、羊を数える方が入眠までの時間が長くなる傾向が見られたのです。
なぜこのような結果になったのでしょうか。人間の脳の働きを研究している専門家によると、その理由は私たちの思考の仕組みにあるそうです。
「羊を数える」が逆効果になってしまう3つのワケ
まず1つ目は「考えすぎ効果」とも呼べる現象です。「眠らなきゃ」という意識が強くなればなるほど、脳は逆に活性化してしまいます。例えば「この会議で絶対に居眠りしてはいけない」と強く意識すると、かえって眠くなってしまうアレと同じ原理です。
2つ目は「条件づけ」の問題です。布団の中で一生懸命羊を数えると、「布団=頭を使う場所」という認識が徐々に形作られていきます。まるで、リビングのソファでうたた寝できるのに、布団に入ると目が冴えてしまうような状況と同じですね。
3つ目は「イメージの個人差」です。特に日本人の場合、普段の生活で羊を目にする機会が少ないため、羊の姿を具体的にイメージするのに余計な脳の働きが必要になってしまいます。これは、寝る直前に難しい計算問題を解くようなものかもしれません。
実際に、ある不眠に悩む会社員の方はこう語っています。
「昔から羊を数えるといいって聞いていたので、眠れない夜に試してみたんです。でも、羊の姿を想像しようとすると、『こんな感じかな?』『もっとモフモフしてるかな?』って考え出しちゃって、気づいたら全然眠くなくなってました(苦笑)」
このように、頭の中で羊をイメージしようとする行為自体が、かえって脳を目覚めさせてしまう原因になっているようです。
それでも羊が睡眠のお供として愛され続ける理由とは?
科学的な効果は低いとされる「羊を数える」という方法ですが、それでも世界中で長く親しまれ続けているのはなぜでしょうか。
その理由の1つは、「文化的な影響力」にあります。先ほど紹介した歴史的背景からも分かるように、この習慣は様々な文化圏を超えて伝播してきました。そのため、多くの人々にとって「眠れない時の対処法」として、最も身近で親しみやすい方法として定着しているのです。
また、羊というモチーフ自体が持つ「癒し効果」も無視できません。ふわふわした毛並みや、のんびりとした動きは、それだけでも心を落ち着かせる効果があるとされています。実際、「羊のぬいぐるみを抱いて寝ると安心する」という声も少なくありません。
眠れない夜に試したい!科学的に効果が確認された新しい方法
羊を数えることに代わる、より効果的な方法が研究で明らかになってきています。その中でも特に注目されているのが「イメージ法」です。
これは「自分が心地よいと感じるものを積極的に想像する」という方法です。例えば、お気に入りの場所でくつろいでいる様子や、楽しい思い出を振り返るといったことです。不思議なことに、何かを「考えないようにする」より、好きなことを「自由に考える」方が、脳はリラックスしやすいようです。
ある睡眠研究の専門家は、このように説明しています。
「布団の中で『絶対に仕事のことを考えないぞ』と意識すると、かえってその内容が頭から離れなくなります。それよりも『今度の休みは海に行こうかな』といった楽しい妄想に浸る方が、自然と心が落ち着いてきます」
みんなで共有したい!眠れない夜の豆知識
ここまで「羊を数える」という習慣について、その歴史や効果、そして新しい代替方法まで見てきました。古くからある習慣の中にも、現代の科学で解明される新しい発見があるというのは、とても興味深いものですね。
もしかしたら、あなたの周りにも眠れない夜に羊を数えている人がいるかもしれません。その時は「実はね、この習慣には面白い歴史があって…」と、この記事で学んだ知識を共有してみてはいかがでしょうか。
特に「英語のsheepとsleepの関係」や「イスラム文化圏から始まった意外な歴史」は、きっと多くの人が「へぇ!」と興味を持ってくれるはずです。時には、こうした雑学的な会話から、お互いの睡眠の悩みや対処法について語り合えるかもしれません。
眠れない夜の対処法は、人それぞれ違って当然です。大切なのは、自分に合った方法を見つけること。そして時には、古くからある習慣の意外な歴史に思いを馳せてみるのも、また楽しいものかもしれませんね。
今夜、布団に入ってふと目が冴えたとき、昔の人々も同じように眠れない夜を過ごしていたのかな…そんなことを想像してみるのも面白いかもしれません。