江戸っ子には不評だった?「猫またぎ」のトロ
かつての江戸では、今でいう「高級トロ」が「猫またぎ」と揶揄されるほど不人気でした。当時の江戸っ子たちはさっぱりした赤身を好み、脂たっぷりのトロは敬遠されがち。トロは猫も見向きもしない存在として、魚屋でも扱いに困る部位だったのです。
この「猫またぎ」という言葉には、「猫もまたいで通るほど価値がない」という意味が込められていました。脂っこさが「粋」からほど遠いとされたトロの扱いからは、江戸時代の粋な美意識が垣間見えます。
どうにもならない?保存技術とトロの相性の悪さ
江戸時代、トロが不人気だった理由には、保存技術の問題もありました。脂の多い部位は腐りやすく、今のように新鮮なままで保つのが難しかったため、廃棄されることが多かったのです。また、流通の関係で相模湾から江戸に到着する頃には、すでに傷み始めていたこともあり、魚屋にとっては頭を抱える存在だったのです。
現代のように冷凍技術が発達していれば、江戸時代の魚好きたちもトロの甘みを堪能できたかもしれませんね。
味覚の変化とトロの評価アップ?戦後の大逆転劇
トロが今のように人気を得る転機は、昭和時代に訪れます。戦後、冷凍・冷蔵技術が進化し、脂の甘みやコクを楽しめるようになったトロが見直され始めました。同時に、食生活が豊かになるとともに脂の多い食材が好まれるようになり、かつては「ゴミ扱い」されていたトロが寿司ネタとしての人気を徐々に高めていったのです。
トロの価値が見出され、寿司ネタとしての地位を築くまでには、日本人の味覚が時代と共に変化した背景があったのですね。
一流寿司ネタへの変身!トロの評価が確立した80年代
1980年代に入ると、トロは「寿司の顔」ともいえる存在に。寿司文化が世界に広がる中で、トロは「贅沢の象徴」として脚光を浴び、寿司屋の看板メニューとしても人気を博すようになりました。日本のみならず海外でもトロの希少性が評価され、まさに「高級ネタ」として認知されるまでになったのです。
希少部位であるトロの需要が高まったことで、さらに価値が上がり、日本を代表する寿司ネタとしての地位を築き上げたわけです。
トロの歴史から見える日本人の味覚の変化
トロが「猫またぎ」から「高級食材」へと変わる過程には、日本人の味覚や食文化の柔軟性がうかがえます。時代の変化や技術の発展に合わせて、食文化も進化してきました。今や世界中で愛されるトロも、その裏には多様な食文化と技術革新がありました。
食卓でトロを楽しむとき、その背景にある歴史も一緒に味わってみると、より一層の深みを感じるかもしれません。