考え事をするとき、思わず上を向いてしまう理由
「あの人の名前、なんだっけ…?」と思い出そうとするとき、なぜか視線は自然と上を向いてしまいます。顔も、どこで会ったかも覚えているのに、名前だけがどうしても出てこない。そんなとき、私たちは無意識のうちに天井を見上げてしまいます。この不思議な行動の裏には、実は人間の脳の賢い戦略が隠されていたのです。
考え事をするとき上を向くのは、脳が「情報をシャットアウトしようとする」からだと言われています。
人間の五感のうち、視覚からの情報量は実に83%にも及びます。これは聴覚の11%、嗅覚の3.5%、触覚の1.5%、味覚の1%と比べても圧倒的。そう、私たちの脳は常に大量の視覚情報と戦っているのです。
面白いことに、集中して考えようとするとき、脳は「邪魔な情報を減らそう」と必死になります。そこで選んだ策が「情報の少ない上方向に目を向けること」だったというわけです。まるでスマートフォンの余計な通知をオフにするように、脳は賢く視覚情報を制御していたのですね。
目は脳の窓?視覚と思考の意外な関係
「目は口ほどにものを言う」というように、目の動きには私たちの内なる活動が如実に表れます。アメリカ心理学の父と呼ばれるウィリアム・ジェームズは、1890年という早い段階で「目の動きと思考には深い関係がある」という驚くべき発見をしています。
特に興味深いのは、私たちの目が「思考のための動き」をすることです。例えば、数学の難問に取り組むとき、目を閉じていても眼球は活発に動きます。これは、まるで脳内の情報を探し回っているかのよう。そして必要な情報が見つかると、ピタリと動きを止めるのです。
この現象について、金沢工業大学の伊丸岡俊秀教授は面白い実験を行いました。天井にポスターを貼って問題を出したところ、被験者は最初こそ上を向きましたが、すぐに「情報の少ない壁」に視線を移したそうです。つまり、脳は常により静かな場所を求めているわけですね。
あなたの目は何を探している?思考と視線の不思議な法則
私たちの目の動きには、実はもっと深い意味が隠されているかもしれません。心理学では「過去のことを考えるときは左上、未来のことを考えるときは右上を見る傾向がある」という興味深い仮説があります。
ある実験では、14人の被験者に未来に関する質問をしたところ、3人が右上を、残りの11人が左上を見たそうです。一見、仮説と矛盾するように思えますが、これには納得の説明があります。「未来を考えるときも、過去の経験を参照している」という解釈です。
人間の脳の記憶配置について研究している専門家によると、「過去」の記憶は左脳の側頭連合野という部分に保存されているとか。ここから情報を引き出そうとすると、自然と左側に目が向くというわけです。まさに、私たちの目は「記憶の倉庫」を物理的に探しに行っているのかもしれません。
「考え事の名手」になれる?脳が喜ぶ思考環境の作り方
このように、人間の思考と目の動きには深い関係があります。では、より良い思考のために私たちにできることはあるのでしょうか?
科学的な研究によると、目からの情報量を適切にコントロールすることで、思考の質を上げられる可能性があるそうです。例えば、重要な会議の際は、画面いっぱいの派手なプレゼン資料よりも、シンプルな資料の方が参加者の思考を妨げにくいとか。
また、記憶力の研究で有名なある大学では、試験会場の壁をあえて無地にしているそうです。「視覚情報を最小限に抑えることで、学生の思考力を最大限に引き出す」という考えからだとか。なるほど、脳科学に基づいた賢い戦略ですね。
知ってびっくり!思考と視線の豆知識をシェアしよう
「え、そうだったの!?」とびっくりする人も多いのではないでしょうか?次に友達が考え事をしながら上を向いているのを見かけたら、「実は、それって脳が賢く情報をコントロールしているんだよ」と教えてあげてください。
視覚情報が83%も占めているという事実や、目の動きと思考の関係など、人間の脳の不思議な仕組みについて知ることは、日常生活の様々な場面で役立つかもしれません。例えば、大切な試験や会議の前には、できるだけ視覚的な情報を整理しておく…なんていうのも、科学的な根拠のある良い習慣かもしれませんね。
そういえば、アインシュタインは「重要な発見をしたとき、いつも窓の外を眺めていた」という話を残しています。もしかしたら彼も、無意識のうちに脳の働きを理解していたのかもしれません。さて、この記事を読んだ皆さんは、次に考え事をするとき、自分の目がどこを向いているか、ちょっと意識してみませんか?