孫の手が「孫」じゃない?驚きの真実
背中が痒くなったとき、あなたはどうしていますか?手が届かないもどかしさに、壁にこすりつけたり、ドアの角を使ったり…。そんなとき、私たちの救世主となってくれるのが「孫の手」です。
実は筆者も以前、電車の中で突然背中が痒くなり、必死に我慢したものの、結局駅のコンビニで孫の手を買ってしまった経験があります。その時は「なんで『孫の手』っていうんだろう?」とふと考えたことを覚えています。
もしかしたら、みなさんも「優しい孫が、おじいちゃんやおばあちゃんの背中を掻いてあげている姿から、孫の手って呼ばれるようになったんだろうな」と想像したことがあるかもしれません。でも、実はそれは大きな誤解なんです。
『孫の手』は中国の美しい仙女「麻姑」が由来だった
実は孫の手、本来は「麻姑(まこ)の手」と呼ばれていたことをご存知でしょうか?「麻姑」とは、中国の西晋時代に書かれた『神仙伝』という本に登場する、とある仙女の名前です。
この『神仙伝』は、不老不死の力を持つとされる仙人たちの伝記をまとめた本で、現代で言えばファンタジー小説のような世界観を持つ書物です。その中で「麻姑」は、見た目は18~19歳の美しい娘でありながら、実は「海が三度、陸地になるのを見た」という驚くべき長寿の持ち主として描かれています。まさに、若さと長寿を兼ね備えた理想の女性だったわけです。
『麻姑掻痒』を生んだ、切なくも面白い物語とは
この麻姑が登場する『神仙伝』には、とても興味深い逸話が残されています。
時は紀元2世紀、中国・後漢の時代。王遠(おうえん)という仙人が、かつての弟子である蔡経(さいけい)の家を訪ねました。その時、王遠は妹である麻姑も呼び寄せたのです。
麻姑は、腰まで届く美しい黒髪を優雅に垂らし、きらびやかな錦の着物をまとっていました。そして特徴的だったのが、鳥のように長く伸びた爪。この爪を見た蔡経は、思わず「この爪で背中を掻いてもらえたら、さぞかし気持ちがいいだろうな…」と妄想してしまいます。
ところが、その邪な考えを見抜いた王遠は激怒。「麻姑は神聖な仙人なのに、何という不埒な考えを!」と叱責し、蔡経は背中を鞭で打たれてしまったのです。
この逸話から、「背中の痒みを掻く」という行為と「麻姑の長い爪」が結びつき、後に背中を掻く道具を「麻姑の手」と呼ぶようになりました。ちなみに、この故事から「麻姑掻痒(まこそうよう)」という言葉も生まれました。これは「物事が思い通りになる」という意味の四字熟語で、「麻姑に背中を掻いてもらえたら最高だろうな」という願望から派生した表現なのです。
桑の木から作られていた!?『爪杖』と呼ばれていた時代の孫の手
1712年に出版された『和漢三才図会』という江戸時代の百科事典には、孫の手のことを「爪杖(そうじょう)」と呼んでいたという記録が残されています。「桑の木を削って指の形を模った道具で、自分の背中を掻くために使う」と説明されており、当時から実用的な道具として重宝されていたことがわかります。
では、なぜ「麻姑の手」が「孫の手」に変化したのでしょうか?残念ながら、その正確な時期や理由は記録に残っていません。ただ、「まこ」という音が「まご」に変化し、さらに漢字が「孫」に置き換わっていったのではないか、という説が有力です。
世界の貴族が愛用していた!?驚きの孫の手文化
実は「背中が痒い」という悩みは、世界共通だったようです。特に17~18世紀のヨーロッパでは、上流階級の間で豪華な孫の手が流行していました。
象牙や銀などの貴金属で作られた孫の手は、れっきとしたアクセサリーとして扱われ、貴婦人たちはドレスの腰から孫の手を下げて外出していたそうです。まるで、現代の女性がバッグや装飾品を身につけるように、孫の手をおしゃれのアイテムとして使っていたわけです。
面白いことに、この習慣には切実な理由がありました。当時のヨーロッパでは日本のような入浴習慣がなく、下着も毎日取り替えるものではありませんでした。そのため、シラミなどによる痒みに悩まされることが多く、孫の手は実用的なアイテムとしても重宝されていたのです。
あなたの知らない孫の手の世界
現代では「Back scratcher(バックスクラッチャー)」や「scratch-back(スクラッチバック)」と呼ばれ、世界中で愛用されている孫の手。日本のお土産としても人気があり、特に竹製の孫の手は海外の方々に「Very Japanese!」と喜ばれるアイテムの一つとなっています。
最近では、携帯用の折りたたみタイプや、マッサージ機能を備えたハイテク孫の手まで登場。麻姑の爪から始まった背中掻きの歴史は、現代に至るまで形を変えながら、私たちの生活に寄り添い続けているのです。
知ってびっくり!孫の手の雑学を広めよう
「へー!孫の手って、そんな面白い歴史があったんだ!」
きっと多くの方が、そう感じたのではないでしょうか。次に背中が痒くなって孫の手を手に取ったとき、中国の美しい仙女・麻姑の物語を思い出してみてください。そして、もし機会があれば、この意外な雑学を誰かに教えてあげてはいかがでしょうか?
「実は孫の手って、孫とは全然関係なくて…」という話から始めれば、きっと相手も興味を持って聞いてくれるはずです。身近なモノに隠された意外な歴史を知ることで、何気ない日常がより楽しくなるかもしれません。
それにしても、背中を掻きたいという想いは、時代も国境も超えて普遍的なものなのですね。麻姑の長い爪に魅了された蔡経の気持ちも、背中の痒みに悩む私たちには少しだけ理解できるかもしれません。
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