思わず懐かしくなる!学校チャイムの正体とは
「授業始まるよ!」という合図で鳴り響く「キーンコーンカーンコーン」。慌てて席に着いた記憶は誰にでもあるはずです。実はこの音、正式には「ウェストミンスターの鐘」という名前を持つ由緒正しい音楽なんです。
世界的に有名なイギリスの観光名所、ビッグ・ベンで鳴り響く音楽として知られていますが、実は学校のチャイム音として採用されるずっと前から、イギリスでは格式高い音楽として親しまれてきました。
イギリスでは15分おきにこの音が鳴り響くのですが、不思議なことに現地の人々には全く気にならないそうです。むしろ、生活の中で当たり前の存在として溶け込んでいるとか。特に午後5時には特別なメロディーが奏でられ、1日の締めくくりを優雅に彩っているそうです
ケンブリッジ大学から始まった800年の物語
このメロディーが初めて世に出たのは、1793年のこと。イギリスの名門、ケンブリッジ大学の敷地内にある「グレート・セント・メアリー教会」という歴史ある教会でした。当時、教会の改修工事で新しい時計を設置することになり、時を告げる音として採用されたのが始まりです。
グレート・セント・メアリー教会は、設立から800年以上の歴史を誇る由緒ある教会。キングス・カレッジのすぐ向かいにあり、学問の街ケンブリッジのシンボル的存在でした。毎日多くの学生や研究者がこの音を聞きながら、勉学に励んでいたことでしょう。
当時のケンブリッジは、イギリス国教会の中心地の一つ。この教会の鐘の音は、祈りと学びの時を刻む大切な役割を担っていました。まさか後に日本の学校で、授業の合図として使われるようになるとは、誰も想像していなかったはずです。
10代の天才が生み出した4つの音の秘密
この印象的なメロディーを作ったのは、当時わずか10代だったウィリアム・クロッチ。1775年生まれの彼は、作曲家であり、オルガン奏者であり、さらには画家としても活躍した多才な人物でした。
メロディーは「ドミレソ・ドレミド・ミドレソ・ソレミド」というシンプルな4つの音の組み合わせ。一説によると、ヘンデルの名曲「メサイア」からインスピレーションを得たとも言われています。特に第3部の「わたしは知る、わたしをあがなう者は生きておられる」という部分がモチーフになったという説が有力です。
実はこのメロディーには歌詞もあるんです。「全ての時をとおして、主よ 導きたまえ」で始まる祈りの言葉が、ビッグ・ベンの時計室の壁に刻まれています。クロッチは単なる時を告げる音楽ではなく、祈りと希望のメッセージを込めていたのかもしれません。
この若き天才の作品は、後にイギリス中で愛される音楽となり、やがて世界中で親しまれることになるのです。
ビッグ・ベンが世界に広めた祈りのメロディー
グレート・セント・メアリー教会で60年以上も親しまれてきた「ウェストミンスターの鐘」は、1859年、ロンドンの新しいランドマークとなるビッグ・ベンに採用されることになります。
ウェストミンスター宮殿の時計塔に設置されたビッグ・ベンは、その荘厳な姿と共に、この美しい音色を世界中に発信する存在となりました。まるで街全体を包み込むように響き渡る深い音色は、多くの人々の心を癒し、時を刻む音楽として愛されていきます。
ちなみに、ウェストミンスター寺院という建物もロンドンにありますが、この建物では別の鐘の音が使われているんです。観光客の中には「ビッグ・ベンの音がしない!」と戸惑う人も多いとか。歴史ある建造物には、それぞれ独自の鐘の音があるというのも、イギリスならではの文化かもしれません。
戦後日本の学校チャイムに選ばれた意外な理由
時は流れて1950年代。戦後の日本の学校では、授業の合図に空襲警報に使われていたベルが使われていました。しかし、辛い記憶を思い出してしまう生徒たちの声から、新しい音を探す動きが始まります。
東京都大田区立大森第四中学校の教員だった井上尚美さんは、当時を振り返ってこう語っています。「生徒たちが怖がる音を、このまま使い続けていいのだろうか」。そんな思いから、従姉妹で技術者の加藤一雄さんと共に、新しいチャイムの開発に取り組んだのです。
面白いことに、同じ頃、発明家の石本邦雄さんと、警報機メーカーの真島福子さん夫妻も、それぞれ独自にウェストミンスターの鐘を学校用チャイムとして開発していました。当時、BBCラジオから流れていたこの音色が、穏やかで親しみやすい印象だったことが、開発のきっかけの一つだったようです。
あなたの知らない学校チャイムの豆知識
時代は移り変わり、現代の学校ではチャイムのあり方も少しずつ変化してきています。北欧の教育方式を取り入れた「ノーチャイム制」を導入する学校も登場。生徒自身の時間管理能力を育てる狙いがあるそうです。
ある小中一貫校の先生は「最初は戸惑う生徒もいましたが、自分で時間を意識するようになり、むしろ集中力が増した気がします」と話します。時代と共に変わりゆく学校文化の中で、チャイムの役割も新たな姿を見せ始めているのかもしれません。
とはいえ、今でも多くの学校で鳴り響く「ウェストミンスターの鐘」。18世紀のイギリスで生まれ、戦後の日本で新たな意味を持ち、現代に至るまで愛され続けているこの音色には、知れば知るほど深い魅力があります。
次に学校や街中でこの音を耳にしたとき、800年の時を超えて受け継がれてきた物語を、周りの人に話してみてはいかがでしょうか。きっと、普段何気なく聞いている音が、より特別な響きに聞こえてくるはずです。
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