サスペンスドラマと崖シーンの深い関係
誰もが一度は目にしたことがあるはず。2時間サスペンスドラマのラストシーン、探偵や刑事が犯人を追い詰め、崖の上で対峙するあのシーン。「なぜいつも崖なんだろう?」そんな疑問を持ったことはありませんか?
実は、この「お約束」には深い理由があったのです。「波の音が証言のリズムを作り出す」「自然の壮大さが人間ドラマを引き立てる」など、制作サイドの知恵が詰まっているんです。
崖のシーンが生まれた意外な歴史と背景
多くの人が、松本清張の「ゼロの焦点」(1961年)がきっかけだと思っているかもしれません。確かにこの作品の映画化で使われた石川県のヤセの断崖は、その後の映画やドラマに大きな影響を与えました。
しかし、実は2時間ドラマでの崖シーンが定番となったのは、もっと後の1990年代。バブル期の旅行ブームと、地方を舞台にしたミステリーの流行が重なったことで、崖のシーンは新たな命を吹き込まれたのです。
「いつから崖が増えたんでしょうね」と振り返るのは、2時間ドラマの帝王・船越英一郎。「みなさんが思っているほど、実は崖のシーンって多くないんですよ。でも、一度見たら忘れられない。それだけインパクトがある。だからこそ、みんなの記憶に残るんでしょうね」
サスペンスドラマで崖が選ばれる7つの理由
崖が選ばれる理由は実に多岐にわたります。制作者たちの知恵と工夫が詰まった7つのポイントを、現場の声とともに紹介していきましょう。
1.究極の追い詰めシーンを演出できる空間
「退路を断たれた犯人が、自身の犯行を告白する」―― そんなクライマックスにふさわしい場所として、崖は理想的な舞台となります。テレビ朝日のプロデューサー・松本基弘さんは「取調室では絵がもたない。山の中では面白くない。でも崖なら、犯人の追い詰められた心理状態を視覚的に表現できる」と語ります。
2.波の音が生み出す独特の緊張感
「波の音には不思議な力がある」と船越英一郎は言います。「犯人の告白に自然なリズムを与えてくれる。それに、波の音が大きすぎず小さすぎず、台詞がちょうど聞き取りやすい。自然の音響効果としては最高なんです」
3.ロケ現場としての実用性の高さ
「現場の声を代弁すると、崖は実は撮影がしやすい」と船越は明かします。特に千葉県の屏風ヶ浦は「車でギリギリまで近づける」という利点があり、重い機材の運搬も容易。「バンッと降りて『待て!』って言える。理想的なロケ地なんです」
4.自然が演出する壮大なドラマ性
「東尋坊のような断崖絶壁では、あまりお芝居しなくても、大自然がいろんなことを語ってくれる」と船越。荒々しい波、険しい岩肌、広大な海原―― これらが人間ドラマに重層的な深みを与えてくれるのです。
5.観光地としての魅力がプラスに
意外な事実ですが、崖のシーンには観光振興の側面もありました。「地元の方が『船越英一郎ロード』と呼んで案内している道もある」と船越が語るように、ドラマのロケ地は新たな観光スポットとして注目を集めることも。
6.予算と時間の効率的な運用が可能
「実はリーマンショック以降、制作費が厳しくなってきた」と船越は指摘します。東京から近い銚子の屏風ヶ浦が重宝されるようになったのも、こうした背景があったのです。「でも、予算が限られているからこそ、自然の力を借りて、より印象的なシーンを作り出せる。それが崖のシーンの魅力でもあるんです」
7.視聴者の記憶に残る象徴的な終わり方
「犯人が追い詰められ、波の音を背景に告白する。そして事件の真相が明らかになる」―― この展開は、視聴者の記憶に強く残ります。船越は「崖のシーンは全体の半分もないんですよ。でも、インパクトが強いから、みなさんの印象に残るんです」と微笑みます。
知る人ぞ知る!サスペンスドラマ御用達の崖スポット
2時間ドラマの帝王・船越英一郎が太鼓判を押す崖ロケ地をご紹介します。
「王道は福井県の東尋坊です」と船越。「荒々しい自然が素晴らしい。ここに来たら、ぜひサスペンスごっこをしてほしいですね(笑)」
また、東京から2時間の千葉県・銚子の屏風ヶ浦は、船越いわく「僕のホームグラウンド」。房総半島から三浦半島まで一望できる雄大な景色が魅力です。
さらに、アクセスの良さで選ぶなら神奈川県の城ヶ島がおすすめ。「東京からパッと行けて、雄大な景色が楽しめる。サスペンスファンなら、一度は訪れてほしい場所です」
サスペンスドラマを見る目が変わる!崖の豆知識
サスペンスファンなら、ぜひ友人に教えてあげたい豆知識をご紹介。「実は崖のシーンって、全体の半分もないんです」という船越の言葉や、「波の音が告白のリズムを作る」という演出の裏話は、きっと次にドラマを見るときの新しい視点になるはず。
「日本の文化である2時間ドラマの灯を消さないためにも、こうした裏話を知って、より深く楽しんでいただければ」と船越。「そのためなら、崖の話も何度でもしますよ(笑)」
次に2時間サスペンスを見るとき、ぜひ崖のシーンに注目してみてください。きっと、新しい発見があるはずです。