鳩はいつから平和のシンボルになったの?聖書に隠された物語
私たちの身近にいる鳩。街中で見かけるハトは時に「空飛ぶネズミ」と揶揄されることもありますが、実は深い歴史的な意味を持つ鳥なのです。その歴史は紀元前にまで遡り、キリスト教文化における重要な象徴として扱われてきました。
特に印象的なのは、旧約聖書に登場する「ノアの方舟」の物語です。大洪水で世界が水没した後、ノアは陸地を探すために鳩を放ちました。最初は戻ってきてしまった鳩でしたが、7日後に再び放たれた鳩は、オリーブの小枝(※1)をくわえて戻ってきたのです。これは神の怒りが収まり、新たな平和な世界の始まりを告げる象徴的な出来事でした。
※1:オリーブの小枝は、古代ギリシャ時代から平和や繁栄の象徴とされてきました。
なぜ鳩は平和を象徴する鳥として選ばれたのか?4つの理由
鳩が平和の象徴として選ばれた背景には、以下の興味深い理由があります。
1. 穏やかな性質
他の鳥と比べて攻撃的な行動が少なく、群れで仲良く暮らす習性を持っています。このような性質が、平和のイメージと重なったと考えられています。
2. 忠実な帰巣本能
古代から伝書鳩として重宝されてきた鳩は、確実に目的地に戻ってくる能力を持っています。ノアの方舟の物語でも、この特性が重要な役割を果たしました。
3. キリスト教における象徴的な意味
聖書の中で鳩は、神の祝福や聖霊(※2)の象徴として描かれています。特に洗礼の場面では、天から降りてくる鳩が重要な意味を持っていました。
4. 世界共通で理解しやすい視覚的シンボル
白い鳩とオリーブの枝という組み合わせは、言語や文化の違いを超えて理解できる普遍的なシンボルとして機能してきました。
※2:聖霊とは、キリスト教における神の働きを表す重要な概念です。
芸術家ピカソが世界中に広めた平和のシンボル
鳩が世界的に平和の象徴として認知されるようになったのは、実は20世紀半ばのことです。その立役者となったのが、スペインの天才画家パブロ・ピカソでした。
1949年、パリで開催された「第一回平和擁護世界大会」のポスターに、ピカソは白い鳩の姿を描きました。このシンプルでありながら力強い図案は、世界中の人々の心をつかみ、平和運動の象徴となっていきました。
実はピカソは幼い頃から鳩との深い縁がありました。父親から鳩の絵の描き方を教わり、アトリエでは実際に鳩を飼育していたほど。さらには娘にスペイン語で「鳩」を意味する「パロマ」という名前をつけるなど、鳩への愛着は並々ならぬものでした。
広島から世界へ広がる平和への願い
日本でも、鳩は平和を象徴する重要な存在として認識されています。特に印象的なのは、毎年8月6日に広島で行われる平和記念式典での放鳩(※3)です。
この伝統は1947年の「第一回平和祭」から始まり、70年以上もの間、途切れることなく続けられてきました。白い鳩が青空へ羽ばたく姿は、平和への祈りと希望を表現する感動的な光景として、世界中の人々の心に刻まれています。
興味深いことに、この式典で放たれる鳩たちは、地域のレース鳩愛好家の方々がボランティアで持ち寄った鳥たちだそうです。放鳩後はきちんと自分の鳩舎に戻っていくという、鳩の優れた帰巣本能を活かした取り組みなのです。
※3:放鳩(ほうきゅう)とは、鳩を空に放つことを指します。
古代から受け継がれてきた平和のメッセージ
鳩が平和の象徴として選ばれた背景には、その生態的な特徴も関係しています。群れで平和に暮らし、争いを好まない性質は、古代の人々の目にも留まったようです。
特に興味深いのは、古代ギリシャやローマでも、鳩は平和と結びつけられていた点です。女神アフロディーテ(※4)の使いの鳥とされ、愛と平和のメッセンジャーとして描かれることが多かったのです。
※4:アフロディーテは古代ギリシャ神話に登場する美と愛の女神です。
平和を象徴する他のシンボルたち
鳩以外にも、世界には様々な平和の象徴があります。例えば、日本では折り鶴が平和の象徴として知られています。これは、広島の原爆被害者である佐々木禎子さんの物語がきっかけとなりました。彼女の願いと千羽鶴の物語は、平和への祈りとして世界中の人々の心を動かし続けています。
また、1958年にイギリスの反核運動で生まれた「ピースマーク」は、今や世界共通の平和のシンボルとして認識されています。虹色の旗やVサインなども、平和を表現する重要なシンボルとして使われています。
これらの平和の象徴は、それぞれに深い歴史と意味を持っていますが、鳩ほど普遍的で長い歴史を持つものは少ないと言えるでしょう。
思わず誰かに教えたくなる!鳩と平和にまつわる豆知識
鳩と平和の結びつきについて知れば知るほど、その奥深さに驚かされます。例えば、ある建築家は「街の鳩の数は、その都市の平和度を表している」と語ったそうです。人々が平和に暮らす街だからこそ、争いを好まない鳩たちも安心して住みついているという考え方です。
また、世界の様々な通貨やコインにも、平和の象徴として鳩のデザインが使われています。オリーブの枝をくわえた鳩は、国や文化を超えて「平和」というメッセージを伝えることができる、世界共通の言語とも言えるでしょう。
このように、身近な存在である鳩には、実は深い意味と長い歴史が隠されているのです。今度街で鳩を見かけたとき、「ただの鳥」ではなく、何千年もの間、人類の平和への願いを象徴してきた特別な存在として見てみると、また違った発見があるかもしれません。
街で鳩を見かけた友人や家族に、「実は鳩には面白い歴史があるんだよ」と話してみませんか?きっと、新しい会話が広がるはずです。