『海底ポスト』はなぜ生まれた?その驚きの仕組みと意外な誕生秘話

雑学

思わず誰かに話したくなる!海底ポストの不思議な物語

海の底に郵便ポストがある―。それも、単なるオブジェではなく、実際に手紙を投函できる本物の郵便ポストが。聞いただけで「えっ、本当に?」と驚いてしまう話ですが、これは紛れもない事実なのです。

和歌山県すさみ町の枯木灘(かれきなだ)海岸から約100メートル沖、水深10メートルの海底に設置されているこの郵便ポストは、まるで童話の中の出来事のように思えるかもしれません。しかし、毎年1500通もの手紙が、この神秘的なポストから世界中へと届けられているのです。

「海の中で手紙を出すなんて、ドラえもんの道具みたい!」そんな声が聞こえてきそうですが、この夢のようなポストには、ある男性の情熱と技術が詰まっているのです。

海の中の郵便局?海底ポストが生まれた意外な理由

「すさみといえば美しい海。そして私は郵便局員」

―これは、1999年、当時のすさみ郵便局長だった松本敏彦さんの言葉です。南紀熊野体験博(※1)の開催が決まった際、松本さんはある大胆な提案をしました。

「海の中に郵便ポストを置いたら面白いんじゃないか」

一見突拍子もない提案に、周囲は半信半疑だったといいます。しかし、この提案に興味を示した一人の男性がいました。それが、ドイツから来た技術者のピオルコフスキー・ハインツさんです。

「エアメール(航空便)もシーメール(船便)もあるのに、アンダーシーメール(海中便)はない。これは面白い!」

そう語ったハインツさんは、すさみの海に魅了され、移住を決意した経歴の持ち主。彼の技術と情熱が、この夢のようなプロジェクトを実現へと導いていくことになります。

※1:南紀熊野体験博とは、1999年に和歌山県で開催された体験型の博覧会で、地域の自然や文化を活かした様々なイベントが行われました。

廃棄寸前のポストが海底の星に!驚きの改造物語

実は、このポストには意外な生い立ちがあります。もともとはすさみ郵便局で使われていた古い円柱型ポストで、廃棄が決まっていたものでした。しかし、ハインツさんの手によって、このポストは驚くべき変身を遂げることになります。

「海の中で使えるポストって、どうやって作るんだろう?」

誰もが考えるこの素朴な疑問に対し、ハインツさんは緻密な計算と独創的なアイデアで答えを出しました。

まず取り組んだのは、投函された手紙が水に浮いて逃げ出さないような仕組みづくり。ポストの上部をノコギリで切断し、特殊な蝶番(ちょうつがい ※2)を取り付けて開閉式に改造。さらに、手紙が飛び出すのを防ぐためのネットも装着しました。

「でも、ポスト自体が浮いてしまったら意味がない」

そう考えたハインツさんは、ポストの内部に約1メートルの高さまでコンクリートを流し込み、底には重りとして鉄のレールを取り付けました。まるで、海底に根を張るように。

※2:蝶番(ちょうつがい)とは、扉やふたなどを開閉できるようにする金具のこと。海中での使用に耐えられるよう、特殊な防錆加工が施されています。

誰がどうやって回収するの?海底ポストの知られざる舞台裏

「手紙を投函したら、その後どうなるの?」

多くの人が気になるこの疑問について、地元のダイビングショップ「クラブノアすさみ」のスタッフが明かしてくれました。

驚くことに、投函された手紙は翌日には回収されます。朝一番、ダイバーが海底10メートルまで潜り、丁寧に手紙を回収。その後、手紙を乾かしてすさみ郵便局へ届けられるのです。

「天気が荒れている日は大変です。でも、誰かの大切な思いが詰まった手紙ですから」と語るスタッフの言葉からは、使命感が伝わってきます。

以下のような場合は特に慎重な作業が必要となります。

  • 台風接近時の回収作業
  • 観光シーズンの混雑期
  • 年賀状の受付期間
  • ポストの定期メンテナンス時期

手紙の回収から発送までの流れも確立されています。

  • 朝一番でダイバーが海底ポストへ到着
  • 専用の防水バッグで手紙を回収
  • 陸に上がってすぐに水気を丁寧に拭き取る
  • 自然乾燥させた後、郵便局へ配達

実は日本全国にある!個性豊かな海底ポストたち

すさみ町の海底ポストが有名になるにつれ、日本の他の地域でも海底ポストが設置されるようになりました。それぞれが独自の特徴を持ち、地域の観光スポットとして親しまれています。

静岡県伊東市の伊豆海洋公園では、水深20メートルという深さを誇る海底ポストを設置。クリスマスシーズンになると、特別仕様のポストに衣替えし、季節感たっぷりの演出で訪れる人々を楽しませています。

沖縄県那覇市の波の上うみそら公園では、なんと2つの海中ポストが設置されています。水深7メートルの海底に設置された赤いポストと、浅瀬に設置されたシーサー付きポスト。沖縄らしさ満載のデザインが特徴です。

さらに、沖縄県北谷町の宮城海岸沖には、地元のダイビングショップが協力して設置した海底ポストがあります。北谷町のイメージキャラクター「ちーたん」がデザインされた特製スタンプも人気です。

海の底から広がる人々の想い

「海底から手紙を出すなんて、どんな気持ちなんだろう?」実際に利用した人々の声を集めてみました。

「大阪から来ました。母に『お元気ですか』って書いて投函しました。母が手紙を受け取ったとき、どんな表情をするか楽しみです」(47歳・会社員)

夏休みのピーク時には1日50通もの手紙が投函されることも。年間で約1500通の手紙が、この海底ポストから旅立っています。すさみ町では、これまでに4万通を超える手紙が海底ポストから送られたそうです。

1999年の設置以来、すさみ町の海底ポストは多くのメディアで紹介されてきました。2003年にはテレビ番組「トリビアの泉」で取り上げられ、2015年には人気俳優の山﨑賢人さん出演のCMでも使用されました。

「海の中のポストから手紙を出す」という夢のような体験は、テクノロジーが発達した現代だからこそ、特別な価値を持つのかもしれません。スマートフォンやSNSが当たり前の時代に、わざわざ海底まで潜って手紙を出す。その不便さが、かえって思いの深さを際立たせているようです。

次に友人や家族と話すとき、「実は日本の海底に本物の郵便ポストがあるんだよ」と話してみませんか?きっと、あなたの話に耳を傾ける相手の目が輝きだすはずです。そして、その話を聞いた誰かが、また新たな手紙の送り主になるかもしれません。

【全国の海底ポストガイド】
設置場所 特徴 水深 設置年
和歌山県すさみ町 ・世界一深い場所にある郵便ポストとしてギネス認定
・年間約1500通の投函実績
・毎日回収を実施
10m 1999年
静岡県伊東市 ・伊豆海洋公園内に設置
・クリスマス期間限定の特別仕様あり
20m 1999年
沖縄県那覇市 ・2種類のポストを設置(海底・浅瀬)
・シーサー装飾あり
7m 2013年
沖縄県北谷町 ・ちーたんデザインの特製スタンプあり
・地元ダイビングショップが共同運営
7m 2016年
【利用方法と注意点】
項目 内容
専用はがき ・耐水性の特殊はがきを使用
・各施設で購入可能
・料金は切手代込み
投函方法 ・ダイビング体験での直接投函
・スタッフによる代理投函
・初心者向け体験コースあり
回収システム ・基本的に翌日回収
・専門ダイバーが担当
・天候により変更の可能性あり
【メディア露出歴】
メディア 内容
2002年 ギネスブック 世界一深い場所にあるポストとして認定
2003年 トリビアの泉 特殊な郵便ポストとして紹介
2015年 自動車CM 山﨑賢人さん出演のCMで使用

こんな記事も読まれています

1歳児が『買い物カート』の上で爆睡した結果…パパの必死な努力に爆笑と共感の声「この体勢はキツすぎるw」「ほっこりしたw」

4歳の息子がゲーム内で考えた『合言葉』を聞いてみた結果…日頃の疲れも吹っ飛ぶ可愛すぎる言葉に悶絶「自分がママなら泣いちゃう」