なぜサッカーボールは『白黒』になったの?
「ボールが見えない!」この一言から、サッカーボールの歴史は大きく変わることになります。1960年代、テレビでサッカーの試合を観戦する人が増えていましたが、当時主流だった茶色一色のボールは、モノクロ画面では見づらいという大きな問題を抱えていました。芝生のグラウンドに溶け込んでしまい、視聴者はボールの動きを目で追うのに苦労したのです。
この問題を解決するため、日本のボールメーカー「モルテン」が画期的なアイデアを思いつきます。それは、ボールを白と黒の2色で構成するという発想でした。グラウンドの色に対して、くっきりと浮かび上がって見えるようにと考えられたこのデザインが、後の「テルスター(※1)」と呼ばれる伝説的なサッカーボールの誕生につながっていきます。
※1:テルスター – 1970年メキシコワールドカップで初めて使用された白黒の公式球。名前の由来は「テレビのスター」という意味で、まさにテレビ時代を象徴するボールでした。
サッカーボールの白黒デザインの秘密
白黒のサッカーボールには、実は緻密な計算が隠されています。黒い五角形12枚と白い六角形20枚を組み合わせた「切頂二十面体(※2)」という形状は、古代ギリシャの数学者アルキメデスの理論に基づいています。この組み合わせは、ボールの球体としての完成度を極限まで高めることに成功しました。
※2:切頂二十面体 – 幾何学でいう正二十面体の頂点を切り取ってできる立体図形のこと。サッカーボールの形状の元になった数学的な概念です。
なぜ五角形と六角形なの?
五角形と六角形の組み合わせには、実は深い理由があります。これらのパネルを縫い合わせることで、ほぼ完璧な球体に近づけることができるのです。まるでパズルのピースを組み合わせるように、32枚のパネルが絶妙なバランスで配置されています。この形状により、ボールの飛行安定性も格段に向上しました。
手元にサッカーボールがある人は、ぜひ五角形と六角形の数を数えてみてください。必ず黒の五角形が12枚、白の六角形が20枚になっているはずです。この黄金比とも言える組み合わせが、サッカーボールの完成形として長年愛され続けている理由なのです。
昔のサッカーボールは茶色一色だった
サッカーが今のような近代スポーツとして確立されたのは1863年。この頃のボールは、今とは全く異なる姿をしていました。動物の膀胱を膨らませて革で包んだだけの原始的なもので、完全な球体からはほど遠いものでした。選手たちは不規則な形のボールに悪戦苦闘しながらプレーしていたのです。
紐付きボールから空気入れの時代へ
1930年の第1回ワールドカップでは、今では想像もつかないような光景が見られました。使用されたボールには、なんとラグビーボールのような紐が付いていたのです。この紐は空気を入れた後で穴を閉じるために必要でした。決勝戦では、アルゼンチンとウルグアイが持ち寄った異なるボールを前後半で使い分けるという珍しい事態も起きています。
面白いことに、1950年代までは各チームが好みのボールを持ち寄ることが一般的でした。「ホームチームは自分たちの使い慣れたボールを使いたがった」という当時の選手の証言も残っています。
画期的な32面体ボールの誕生
革命的な変化が訪れたのは1960年代。モルテンの営業マンがヨーロッパで見たという亀甲型のボールをヒントに、新しい開発が始まります。このとき採用されたのが、アルキメデスの立体理論を応用した32面体の構造でした。
テルスターの開発秘話
開発者たちは、ボールの見た目だけでなく、蹴りやすさにもこだわりました。パネル同士の縫い目は、実はボールのコントロール性に大きく影響するのです。32面体の構造では、縫い目の総延長が約90センチメートルになり、これが絶妙な「グリップ感(※3)」を生み出すことに成功しました。
実は当初、この白黒のデザインに懐疑的な声もありました。「伝統的な茶色のボールを変える必要があるのか?」という疑問の声が上がったのです。しかし、1970年のメキシコワールドカップでペレ選手が見事なプレーを披露したことで、この革新的なボールは一気に世界中で認められることになりました。
※3:グリップ感 – ボールを蹴ったときや、キーパーが捕球するときに感じる適度な摩擦や手応えのこと。選手のパフォーマンスに大きく影響する重要な要素です。
カラフルなボールの時代でも愛される白黒デザイン
1990年代後半になると、カラーテレビの普及とともにサッカーボールにも変化が訪れます。1998年のフランスワールドカップでは、フランス国旗をイメージしたトリコロールカラーのボールが登場。白黒の時代から、よりカラフルでダイナミックなデザインの時代へと移り変わっていきました。
しかし面白いことに、練習用のボールや一般的なサッカーボールでは、今でも白黒の32面体デザインが愛用されています。その理由は、このデザインがボールの理想形として広く認知されているからです。子どもたちが描くサッカーボールも、ほとんどが白黒の市松模様ですよね。
進化を続けるサッカーボール技術
現代のサッカーボールは、さらなる進化を遂げています。パネルの数を減らしたり、接着方法を改良したりすることで、より正確な球体に近づけることに成功しました。最新の公式球には、ゴールラインテクノロジー(※4)に対応したICチップが内蔵されているものもあります。
※4:ゴールラインテクノロジー – ボールがゴールラインを完全に越えたかどうかを判定するための技術。主審のウェアラブル端末に即座に結果が通知されます。
匠の技が光る職人技
実は、高品質な手縫いのサッカーボールの約7割がパキスタンで生産されているというのは、意外と知られていない事実です。かつて英国の植民地だった歴史的背景から、革製品の製造技術が根付いているのです。現在では、伝統的な手縫いの技術と最新のテクノロジーが融合して、より良いボールが作られています。
サッカーボールの雑学で話が弾む
サッカーボールにまつわる話題は、スポーツの話はもちろん、歴史、数学、テクノロジーなど、様々な分野に広がっています。例えば、「なぜ白黒なの?」という素朴な疑問から、テレビ放送の歴史や、ボールデザインの進化について語り合うことができます。
友人との会話で「実は昔のサッカーボールは茶色一色だったんだよ」と切り出すと、意外な事実に驚かれるかもしれません。また、アルキメデスの立体理論が現代のスポーツに活かされているという話は、数学の面白さを伝えるきっかけにもなりそうです。
このように、サッカーボールの白黒デザインには、テレビ放送や技術革新、そして人々の創意工夫が詰まっています。スポーツの歴史を知ることで、普段何気なく目にしているものの中にある驚きの物語を発見できるかもしれませんね。
年代 | 特徴 | 主な出来事 |
---|---|---|
1863年頃 | 茶色一色の革製 | ・動物の膀胱を革で包む ・不規則な形状 |
1930年代 | 紐付きボール | ・第1回W杯で使用 ・チーム持ち寄り制 |
1960年代 | 白黒32面体 | ・テルスター誕生 ・モノクロTV対応 ・アルキメデスの立体採用 |
1990年代後半 | カラフルデザイン | ・カラーTV普及 ・マルチカラー採用開始 |
現代 | ハイテク化 | ・ICチップ内蔵 ・パネル数削減 ・接着技術向上 |
要素 | 詳細 | 効果 |
---|---|---|
黒パネル | 五角形12枚 | ・視認性向上 ・球体安定性確保 |
白パネル | 六角形20枚 | ・基調色として機能 ・パネルバランス維持 |
縫い目 | 総延長約90cm | ・適度なグリップ感 ・コントロール性向上 |
項目 | 特徴 | 備考 |
---|---|---|
主要生産地 | パキスタン | ・全世界の約70%を生産 ・手縫い技術の継承 |
最新技術 | ゴールラインテクノロジー | ・ICチップ内蔵 ・即時判定可能 |
デザイン傾向 | 伝統と革新の共存 | ・カラフルな公式球 ・根強い白黒デザイン |
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