「とりあえず数えてみよう!」全国一斉の人口調査
「一体、日本には何人の人が住んでいるのだろう?」
明治政府が直面したこの素朴な疑問から、日本の人口調査は始まりました。1872年、明治政府は前年に制定された戸籍法(※1)に基づいて、日本で初めての全国戸籍調査を実施。この調査結果から判明した当時の人口は、男性が1,679万人、女性が1,631万人、合計で3,311万人でした。
実は、この調査には興味深いエピソードが隠されています。当時の調査では、女性の人口が異常に多く報告される地域があったのです。その理由は、女性の税金が男性より安かったため、多くの世帯が男性を女性として申告していたからだといいます。まさに「税金対策」の知恵が垣間見える出来事でした。
※1:戸籍法とは、人々の出生や婚姻、死亡などの身分関係を公に証明するための法律。明治時代に制定された当初は、人口把握と徴税が主な目的でした。
江戸時代から続く人口把握への挑戦
実は日本の人口調査の歴史は、遥か昔の大化の改新(645年)まで遡ります。当時は年貢を徴収するために人口を把握する必要があったのです。江戸時代には「人別帖」と呼ばれる記録があり、1721年の記録では日本の人口は約2,606万人とされています。
面白いことに、江戸の人口は全国の約30分の1だったそうです。これは奈良時代から変わらない比率だったといいます。現代の東京都の人口は全国の約10分の1ですから、当時の首都への人口集中は、現代ほど極端ではなかったことがわかります。
人口調査が映し出す日本の大変貌
150年前に始まった全国規模の人口調査。最初の調査から約50年後、1920年になって現在の国勢調査(※2)が始まりました。実はこの調査、当初は1905年に実施される予定でしたが、日露戦争の影響で15年も延期になるという波乱の幕開けでした。
初回の国勢調査では、調査員たちが全国を走り回って約5,600万人の日本人を数え上げました。今では考えられませんが、当時の集計は手作業。パンチカードを使って黙々と作業を続け、なんと最終報告書の完成まで12年もかかったそうです。その間に次の調査が2回も行われるという慌ただしさでした。
※2:国勢調査とは、日本に住むすべての人と世帯を対象とする、日本で最も大規模な統計調査。5年に一度実施されます。
壬申戸籍が語る!明治時代の暮らしの断片
1872年の調査で作られた戸籍は「壬申(じんしん)戸籍」(※3)と呼ばれ、当時の世相を色濃く反映していました。例えば、士族や平民といった身分の記載はもちろん、その人の職業まで細かく記されています。面白いことに、当時の寺や氏神の情報まで記録されており、まさに明治時代の人々の暮らしを映す鏡となっています。
※3:壬申戸籍の「壬申」は、1872年の干支から名付けられました。当時の人々の身分、職業、家族構成などが詳しく記録された貴重な歴史資料です。
国勢調査員が見た日本の変化
戦後の高度経済成長期には、調査員たちも様々な苦労を重ねてきました。1960年代、多くの人が都市部に移り住み、夜勤で働く人が増えたため、なかなか会えない世帯が続出。「3回目でようやく会えた!」という調査員の喜びの声が記録に残っているほどです。
また、1970年代には、オートロック式マンションが登場し始め、調査方法の大きな転換期を迎えます。「玄関先で5分だけ」が合言葉だった訪問調査は、次第に郵送やインターネットでの回答へと形を変えていったのです。
デジタル時代の『人口調査』スマホで答える時代へ
2020年の国勢調査では、なんと約5,700万世帯のうち約4,200万世帯がインターネットで回答するという大きな変化が起きました。新型コロナウイルスの影響もあり、対面での調査を避ける動きが加速。人口調査は150年の歴史の中で、最も大きな転換期を迎えています。
ところが、思わぬ課題も浮上しています。高齢者のデジタル機器への不慣れ、オートロックマンションでの調査の難しさ、そして、プライバシー意識の高まりによる回答拒否。2020年の調査では、約16%の世帯が未回答という結果に。「全員の暮らしを映す鏡」としての役割を、どう守っていくのか。新たな挑戦が始まっています。
AI時代の意外な発見!人口データの新しい使われ方
最近では、人口調査のデータがビジネスの世界でも注目を集めています。例えば、コンビニの出店計画では、その地域の人口構成や世帯数の推移が重要な判断材料に。また、災害対策では、高齢者が多い地域を特定して、優先的な支援計画を立てることも。
さらに面白いのは、婚活アプリの世界。地域ごとの未婚率データを分析して、「この街は意外と出会いの機会が多いかも?」といった新しい街の魅力発見にもつながっているそうです。
あなたの周りで活躍中!人口調査データの意外な活用法
実は私たちの身近なところでも、人口調査のデータが活躍しています。新しい駅や病院の建設計画、学校の統廃合、バスの運行ルートの見直しなど。「この地域には、どんな人が、何人くらい住んでいるのか」というデータが、まちづくりの重要な指針となっているのです。
例えば、ある地方都市では、人口調査データを活用して、高齢者が多い地域に歩いて行ける距離に小さなスーパーを誘致。「買い物難民」の解消に成功したという事例も。データの活用次第で、暮らしやすい街づくりのヒントが見えてくるかもしれません。
人口調査記念日は、ただの数字集めの日ではありません。150年前、明治政府が始めた「日本人を知る」という壮大なプロジェクトは、今や私たちの暮らしを支える大切な情報源となっています。友人や家族と「実は面白い!人口調査の話」で盛り上がってみませんか?きっと、新しい発見があるはずです。
※なお、この記事で紹介した統計データや事例は、総務省統計局の公開情報に基づいています。
年代 | 主な出来事 | 特筆すべき点 |
---|---|---|
645年 | 大化の改新による戸籍制度開始 | 年貢徴収のための人口把握 |
1721年 | 江戸時代の人別帖による調査 | 全国人口約2,606万人を記録 |
1872年 | 明治政府による初の全国戸籍調査 | 総人口3,311万人、壬申戸籍の作成 |
1920年 | 第1回国勢調査実施 | 総人口約5,600万人、手作業での集計 |
1960年代 | 高度経済成長期の調査 | 都市部への人口集中が加速 |
2020年 | デジタル時代の国勢調査 | 約4,200万世帯がオンライン回答 |
分野 | 活用方法 | 具体例 |
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行政サービス | 都市計画・公共施設の整備 | 新駅建設、病院配置、学校統廃合 |
防災対策 | 地域特性に応じた支援計画 | 高齢者密集地域の避難計画策定 |
民間ビジネス | 商圏分析・出店計画 | コンビニ出店、スーパー誘致 |
交通計画 | 利用者数予測・ルート設定 | バス路線の見直し、新路線計画 |
福祉サービス | 地域ニーズの把握 | 買い物難民対策、介護施設整備 |
その他 | 様々な社会分析 | 婚活支援、地域活性化計画 |