人を罵るときに使う『キサマ・オマエ』実は丁寧な言葉だった!?

雑学

「キサマ」「オマエ」は相手に敬意を示す言葉

もしも誰かに「キサマ」や「オマエ」という言葉を使って呼びかけられたら、あなたはどんな気持ちになるでしょうか。

今でこそ何だか「感じが悪い…」とネガティブに捉えられてしまう言葉ですが、かつてはキサマもオマエも相手に敬意を示す言葉でした。まずは、これらの言葉がどのように使われてきたのか、歴史をひも解いてみましょう。

キサマは「貴様」

キサマという言葉は、漢字で「貴様」と書きます。「貴ぶ(たっとぶ/とうとぶ)」に「様」までつく通り、これは相手を目上の人と捉えて呼ぶ二人称でした。

使われ始めたのは室町時代で、主に武家同士の書簡のやり取りをする時に活用されていたのだそう。似た言葉には、「貴殿」があります。

ちなみに、貴様の対義語として、自らをへり下って表現する言葉は「拙者(せっしゃ)」。貴様も拙者も、現在の日常会話ではなかなか出てこない古風な言葉遣いですね。

オマエは「御前」

一方のオマエは、漢字に直すと「御前」となります。そのまま「おまえ」と読むよりも、昔は「おんまえ」や「ごぜん」の意味合いが強く、基本的には身分が上の人の前で使っていました。

「静御前」や「巴御前」に代表されるように、高貴な女性や、貴人の妻である人物への敬意を込めて用いられていたケースもあります。

敬意の度合いが変わる「敬意逓減の法則」

ところが今や、貴様やお前(御前)はよほど親しい人からでないと嫌な気持ちになる言葉という認識が強くなっています。

実は、このような現象を「敬意逓減(けいいていげん)の法則」と言います。逓減は「低減」と書くこともあり、意味は言葉の中に含まれる敬意の度合いが年月を経るごとに薄くなってしまうことです。

「貴様」に込められた敬意の低下

以前は武家以上の人々の間でしか使われていなかった貴様は、江戸時代になると庶民にも広まり、日常会話の中でも用いられるようになったことで、だんだんと敬意が失われていきました。

やがて軍人同士の間では、自分と同等か目下の相手に対する親しみを込めた呼び方としても使われるようになります。

しかし、戦争中などは上司と部下の関係性が悪化するケースもよくあり、部下を叱責したり罵る際に、極端にネガティブな形で使われてしまうこともあったため、貴様という言葉への嫌なイメージが広まってしまいました。

「お前(御前)」に込められた敬意の低下

お前もまた、昔は「お前様」などと最高の敬意を持って目上の人を呼ぶ言葉でしたが、各地の方言や遊女が使う廓言葉に混ざるうちに、敬意が下がった言葉へと移り変わっていきました。

方言によって変化した「お前」には、「おめえ」や「おまん」などがあります。また、町人の間では、妻が夫を呼ぶ時に「おまえさん」がごく当たり前のように使われるなど、自分と同等かそれ以下の相手と話す時の呼び方になっていったのです。

現在では上品とは言いがたい言葉として認識されていることもあってか、プロ野球の応援歌に登場する歌詞で「お前が打たなきゃ誰が打つ」などの「お前」は選手への敬意を欠いているのではないかと、一時は騒動にもなりました。

貴様やお前以外にもあった丁寧な言葉

貴様やお前以外にも、敬意逓減の法則によって、昔よりも込められた敬意の度合いが下がってしまった言葉があります。

例えば、「君(きみ)」という呼び方は、天皇陛下や君主のことを意味するとても敬意のこもったものでした。

また、「あなた」も本来は「貴方」や「彼方」と書き、心理的に近しくない目上の相手を直接指し示さないようにという敬意が含まれていましたが、今ではこの呼び方には丁寧さを感じないと捉える人も増えているようです。

貴様やお前の使い方には要注意!

以前は敬意が込められた言葉だったとは言え、現在では異なる意味として受け止められてしまうことが多いのが「貴様」や「お前」です。

貴様は漫画や小説、アニメの世界でしかなかなか聞くことはありませんが、お前は親しい間柄ならつい言ってしまう人も多いでしょう。

しかし、人によっては嫌だと感じる人も少なからずいるため、言葉の使い方には気をつけていきたいものですね。

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