背もたれがない理由は「逃げやすさ」と「収納」

普通教室の椅子には当たり前のように背もたれがあります。それなのに理科室へ行くと、背もたれのない椅子をよく見かけます。
主な理由として説明されているのが、実験中に事故が起きたとき逃げやすいことと、使わないときに実験台の下へ収納しやすいことです。
普通教室では、机に向かって座りながら授業を受ける時間が中心です。一方、理科室では説明を聞いたあとに立ち上がって実験したり、器具を操作したり、実験台の周囲を移動したりする場面があります。
つまり、理科室の椅子は「座っているときの快適さ」だけを考えればいい家具ではありません。
すぐ立てる。使わないときは邪魔にならない。そんな理科室ならではの使い方を考えると、背もたれがない形にも意味が見えてきます。
実験中の事故では背もたれがない方が逃げやすい

理科室では、火や薬品などを扱う実験があります。万が一、火源が倒れたり、実験中に思わぬ危険が起きたりすれば、その場からすぐ離れなければならないこともあります。
そんなとき、背もたれのない椅子なら体の後ろを囲う部分がありません。横や後ろへ動くときにも邪魔になりにくく、立ち上がってその場を離れやすい形です。
学校家具メーカーも、実験中に火源の転倒や爆発などが起きた場合に、咄嗟に逃げやすいことを背もたれがない理由の一つとして挙げています。
背もたれ付きの椅子では逃げられない、という話ではありません。それでも、普通教室なら快適さにつながる背もたれが、理科室では緊急時にはない方が動きやすい場面があります。
いつもなら便利なものが、場所が変わると逆に邪魔になることがある。この逆転が、理科室の椅子を理解する一つのポイントです。
立って実験するときは椅子を実験台の下へ仕舞える

背もたれがない理由は、事故への備えだけではありません。普段の授業でも、その形は役に立ちます。
座って説明を聞いていた生徒が実験を始めると、それまで必要だった椅子は一転して作業の邪魔になりかねません。
背もたれのない椅子なら、上へ大きく突き出す部分がないため、使わないときは実験台の下へすっきり収めやすくなります。
椅子が外へ出ていなければ、実験台の周囲を動きやすくなり、器具などを持って移動するときにも邪魔になりにくくなります。
つまり「収納しやすい」というのは、単なる片付けの話ではありません。座って説明を聞き、立って実験し、また座って記録する。そんな授業中の動きに合わせて、必要なときだけ椅子を使いやすいのです。
理科室の椅子は「角椅子」だけではない
ところで、「理科室の椅子」と聞いて思い浮かべる形は、人によって違うかもしれません。
木製で四角い座面の椅子は「角椅子」や「角イス」と呼ばれています。一方で、丸い座面を持つ背もたれなしのスツールも、理科室用の家具として使われています。
つまり、理科室の椅子が必ず四角い木製のものと決まっているわけではありません。
さらに角椅子には、側面に「当て板」と呼ばれる板が付いたタイプもあります。これは背もたれの代用品ではなく、椅子を横倒しにして小さな作業台として使える工夫です。
こうしたタイプは図工室向けなどで見られ、すべての理科室の角椅子に付いているわけではありません。
一見すると何かを省いただけに見えるシンプルな椅子も、使われる場所に合わせて形が考えられています。理科室であの椅子を見かけたら、今度は背もたれが「ない」ことにも注目してみると、見え方が少し変わるかもしれません。


