おはぎの由来は怖い?侍を震え上がらせた「半殺し」「本殺し」の正体

雑学

おばあちゃんの「半殺しにしようか」は本当に怖い言葉なのか

「今日は半殺しにしようかねぇ」

徳島県の某所。おばあちゃんがにこやかな笑顔で、大きな木の棒を手に持ちながらそんなことを言い始めました。思わず背筋が凍りそうになりますよね。でも安心してください。これは決して物騒な状況ではないんです。

実は「半殺し」という言葉、日本の各地で『おはぎ』や『ぼたもち』を指す方言として使われているんです。特に徳島県、群馬県、長崎県、山形県、大阪府などでは、お彼岸になるとよく耳にする言葉なんだとか。そう、先ほどのおばあちゃんも、おはぎ作りの準備をしていただけなんです。

「半殺し、本殺し」の謎に迫る!おはぎの物騒な呼び名の由来

では、なぜこんな物騒な名前がついたのでしょうか。その理由は、おはぎの作り方に隠されています。

おはぎは、もち米とうるち米を蒸して、程よくつぶして作ります。ここで重要なのが「程よく」という加減。お米を完全につぶしきってしまうと、べたべたしすぎてしまいます。かといって、つぶし方が足りないと、今度は形が整わなくなってしまうんです。

この微妙な加減を表現するのに、昔の人は面白い言い方を思いついたんです。お米の粒が半分くらい残るように仕上げることを「半殺し」、完全につぶしきった状態を「本殺し」や「皆殺し」と呼んだんです。

実は地域によって、この呼び方にも違いがあります。例えば、あんこの状態を指して「半殺し」「本殺し」と言う地域もあるんです。小豆の粒が残った粒あんを「半殺し」、なめらかなこしあんを「本殺し」と呼ぶわけです。

「お菓子なのに、なんだか怖い名前…」と思われるかもしれません。でも、この独特な言い回しこそ、日本人の遊び心が垣間見える瞬間なんです。相手を驚かせつつ、クスッと笑いを誘う…。そんな粋な言葉遊びが、世代を超えて受け継がれてきたんですね。

侍を震え上がらせた!?『おはぎ』にまつわる面白い言い伝え

この物騒な呼び名は、思わぬところで誤解を招くこともあったようです。特に有名なのが、山形県に伝わる面白い民話です。

ある夜、一人の侍が山奥の家に宿を借りることになりました。夜も更けて床に就こうとしたその時、侍は家の老夫婦の会話を耳にしてしまいます。

「明日は半殺しにしようか、それとも本殺しかのう…」

思わず背筋が凍る侍。「まさか…自分を…」と、一睡もできない夜を過ごしたそうです。ところが翌朝、老夫婦が出してくれたのは、つやつやと輝く美味しそうなおはぎ。実は2人は、おはぎの作り方を相談していただけだったんです。

この話は江戸時代から親しまれ、今では落語の演目「半殺し本殺し」としても知られています。さらに面白いことに、この落語では「手打ち」という言葉も登場します。当時の言葉で「手討ち(てうち)」といえば、侍が家臣や町人を斬ることを指しました。でも実際は「手打ちそば」のことだったという…。まさに言葉の誤解が生む珠玉のオチですね。

春は「ぼたもち」、秋は「おはぎ」その理由に迫る

おはぎとぼたもちは、見た目がよく似ています。でも実は、季節によって呼び分けられているんです。

春のお彼岸に食べるのが「ぼたもち」。牡丹の花のように大きく丸い形が特徴です。一方、秋のお彼岸には「おはぎ」が登場します。これは秋の七草のひとつ、萩の花にちなんで名付けられました。

面白いのは、あんこの違いにも季節ならではの知恵が隠されているんです。秋のおはぎには、収穫したての小豆で作った粒あんを使います。まだ皮が柔らかいので、粒のままでも美味しくいただけるんです。

でも春になると、保存していた小豆は皮が固くなってしまいます。そこで先人たちは、皮を取り除いてこしあんにすることを思いついたんです。「半殺し」だの「本殺し」だの物騒な言葉を使いながら、実は繊細な味の違いにもこだわっていたんですね。

「半殺し」がお土産に!?各地に残る興味深い文化

物騒な名前とは裏腹に、実は「半殺し」は地域の名物として愛されているんです。

特に有名なのが、徳島県那賀町の「はんごろし」。パッケージには「はんごろし」の文字と、にっこり笑顔のキャラクターが描かれています。その横に控えめに「おはぎ」と書かれた様子は、思わず微笑んでしまうようなバランス感覚。地元の農産物直売所では人気の商品なんだとか。

群馬県の一部地域でも「半殺し」は日常的に使われています。「今日のおやつは半殺しよ」なんて会話が、今でも普通に交わされているそうです。最初は驚く県外の人も、その優しい味わいの虜になって、いつの間にか方言のように使っているなんて話もあるんです。

物騒な名前のルーツから見える日本人の知恵と遊び心

時には人を震え上がらせ、時には笑いを誘う「半殺し」「本殺し」という呼び名。一見すると物騒なこの言葉も、実は日本の食文化に息づく豊かな表現力の一つだったんですね。

お米の状態、あんこの食感、季節の移ろい…。それらを巧みに表現しながら、ちょっとした言葉遊びも織り交ぜる。そんな先人たちの知恵と遊び心が、世代を超えて受け継がれているんです。

次にお彼岸がきたら、友人や家族に「実はおはぎって物騒な別名があるんだよ」なんて話を振ってみてはいかがでしょう。きっと「えっ、なんで!?」という驚きの表情が見られるはず。そこから江戸時代の侍が震え上がった話や、おばあちゃんたちの知恵が詰まった由来を教えてあげれば、おはぎの新しい魅力を再発見できるかもしれませんね。

ただし、友人の家でおはぎを振る舞われた時に「これ、半殺し?本殺し?」と聞くのは、ちょっと勇気がいるかもしれません。その時は、まずは「美味しい!」と素直に感謝の気持ちを伝えてから、そっと豆知識を披露するのがおすすめです。

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