なぜ銭湯の絵は『富士山』なの?意外と知られていない背景画の歴史と雑学

雑学

そもそもなぜ富士山?銭湯で愛されるその理由

日本各地で見かける銭湯。湯船に浸かりながら見上げると、壁いっぱいに描かれた富士山の絵が目に飛び込んできます。「どうして富士山?」とふと疑問を感じたことがある人もいるのではないでしょうか。

じつは、富士山の背景画が銭湯に描かれるようになったきっかけは、大正元年(1912年)に東京・神田の「キカイ湯」で施された壁画が発端とされています。この銭湯の主人が、子どもたちにも喜んでもらおうと、静岡出身の絵師・川越広四郎に頼んで富士山を描いてもらったのが始まりなのです。

そしてこの富士山の背景画は一躍話題となり、銭湯文化に深く根付くことになりました。縁起の良い富士山の姿は多くの人々に愛され、銭湯という場所でくつろぎを提供する一方で、日本人の心にも広く親しまれる存在となっていったのです。

次の項目では、なぜ富士山がこれほどまでに銭湯の定番背景画となったのか、さらに掘り下げていきます。

縁起がいいから?富士山の持つ特別な意味

なぜ銭湯の背景に富士山が描かれるのでしょうか?その答えは、富士山が持つ日本人にとって特別な意味にあります。

富士山はその壮大さや美しさだけでなく、縁起物としての象徴でもあるのです。たとえば、初夢に見ると幸運が訪れるという「一富士、二鷹、三茄子」のことわざにもあるように、富士山は古くから人々の信仰の対象とされ、山岳信仰の象徴でした。

銭湯の背景画において、富士山と共に湖や川が描かれていることも多く、湯船の水が自然の流れに包まれているような感覚を与えます。こうした背景画は、単なる装飾ではなく、心身ともにリラックスできる風景を作り上げているのです。実際に富士山の絵を眺めていると、日本の伝統文化の中に身を委ねているような心地よさが感じられるでしょう。

銭湯の富士山と広告の意外な関係

銭湯の背景画には、実は広告の役割も果たしているものが少なくありません。このスタイルが生まれたのは、銭湯の背景画が関東を中心に広がっていく大正時代のことでした。銭湯に訪れる多くの人々の目に触れる背景画は、広告媒体としても非常に有効で、地元の商店や病院、新聞社などが小さな広告を提供するようになりました。

広告料で絵師への報酬が支払われ、富士山などの背景画を無料で提供するシステムが確立していったのです。こうして銭湯の背景画は単なる装飾以上の意味を持ち、地元経済とも関わりを持ちながら、まさに地域に根差した文化として定着していきました。この広告ビジネスが、銭湯での富士山背景画の普及に一役買っていたのです。

現代でも、銭湯の背景画には小さな広告が入ることがあり、これを見ると地元の銭湯が地域社会の一部であることが感じられます。次に銭湯を訪れた際には、ぜひ背景画に描かれた広告に目を向け、どんなお店や施設が地域を支えているのかチェックしてみてください。

知っておきたいタブーの背景画、描いてはいけないモチーフとは?

富士山が銭湯の背景画で定番となる一方、実は描かれてはいけないとされるモチーフも存在しています。「猿」「夕日」「紅葉」がその三大タブーとされ、これにはそれぞれ興味深い理由があるのです。

「猿」は「去る」に通じるため、お客が去ってしまうことを暗示します。「夕日」は日が沈む、つまり「家業が沈む」を連想させ、「紅葉」も「散る」「落ちる」を意味し、商売には不向きとされています。こうしたタブーは、日本人が大切にする「縁起担ぎ」が色濃く反映されています。縁起の良し悪しを考えながらも、銭湯という空間で人々が安心して湯に浸かれるようにと願う、職人たちの思いが込められているのです。

銭湯の富士山、実はバリエーション豊か!富士山「御三家」の魅力

富士山の背景画といっても、実際にはその描き方やシーンには様々なバリエーションがあるのをご存じでしょうか?特に人気なのが「西伊豆」「三保の松原」「富士五湖」から見た富士山の構図です。西伊豆からは黒い岩場の海越しに見える富士、三保の松原では松林と砂浜に囲まれた富士、富士五湖では湖の向こうにそびえる雄大な富士山が描かれます。

また、冬の澄んだ空気の中にそびえる富士山が特に人気が高く、季節ごとの美しさを取り入れた絵画が見る人を楽しませます。銭湯巡りをしていると、こうした富士山の違いに気づき、「あ、ここではこんな富士山が楽しめるんだ!」という発見が生まれ、より銭湯文化に愛着が湧いてくることでしょう。

富士山だけじゃない?全国各地の個性ある背景画

実は、銭湯の背景画に描かれるのは富士山だけではありません。関東地方では富士山が定番となっていますが、関西ではタイル画が主流であり、背景画の素材やモチーフにも地域ごとの特色があるのです。北海道の駒ケ岳、富山の立山、熊本の阿蘇山、さらにはスイスのマッターホルンやイタリアのベスビオ火山まで、銭湯の背景画はその地域やオーナーの個性が色濃く反映されています。

また、地元の名所や風景が描かれている場合も多く、銭湯に入ることでその地域の風土に触れることができるのも魅力のひとつです。銭湯という空間が単なる入浴場にとどまらず、その土地の文化をも体感できる場として大切にされていることが感じられるでしょう。

絵師たちの努力と技術、今も続く銭湯背景画の制作現場

銭湯の富士山背景画は、現在では数少ない銭湯絵師たちによって守られています。東京にいるわずか3人のプロ絵師が、技術と情熱を注ぎ込みながら銭湯背景画を描き続けています。制作には青・赤・黄・白の4色のみを使用し、下書きもなしで一気に描き上げるという、まさに職人技が求められる仕事です。

絵師たちは銭湯の定休日に集中して描くため、時間の制約がある中での真剣勝負。描くたびに新たな構図を考え、飽きのこないよう工夫を重ねています。銭湯に行く際には、ぜひそんな絵師たちの努力にも思いを馳せながら、背景画を楽しんでみてください。

日本人の心に寄り添う銭湯富士山の魅力

銭湯で出会う富士山の背景画には、日本人ならではの美意識や縁起担ぎ、そして地域ごとの個性が凝縮されています。銭湯に足を運ぶたびに変わらない安らぎを感じ、そして少しの変化に気づける楽しみもあるのです。

富士山の絵には、人々の心をつかむ不思議な魅力が詰まっています。次に銭湯を訪れた際には、背景画を眺めながら「この富士山のどんな部分に惹かれるだろうか?」と感じてみるのも面白いかもしれません。

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