判決直後『勝訴』の紙を持って走ってくる人って誰? ニュースで見たあの光景の裏側

雑学

全国ニュースでよく見る「あの人」は若手弁護士だった!

夕方のニュースを見ていると、よく目にする光景があります。裁判所から「勝訴」や「無罪」と書かれた紙を持って走り出てくる人の姿。

「いったい誰があんなに急いで走っているんだろう?」
「なぜあんな大きな紙を持っているんだろう?」

そんな疑問を抱いたことはありませんか?

実は、走っているのは多くの場合「足の速い若手弁護士」なのです。32年のキャリアを持つある弁護士は「裁判所の外で待機している支援者や報道陣に、一刻も早く判決結果を伝えるため」だと説明します。

まるで駅伝のタスキを渡すように、判決という重要な情報を外の世界へ届けるランナー。その役目を担うのが、なぜ若手弁護士なのでしょうか。その理由には、意外な歴史が隠されていました。

若手弁護士が走ることになった知られざる歴史

時は1960年代まで遡ります。当時、判決結果を外部に伝えていたのは報道陣でした。裁判所の窓から「勝訴」などと書かれた紙を掲げて、外で待つ人々に結果を知らせていたのです。

ところが1968年、大きな転機が訪れます。裁判所が「秩序維持」を理由に、敷地内での掲示を禁止したのです。しかし、支援者たちへ素早く結果を伝えたい報道陣に代わり、弁護士自身が走って結果を伝えるようになりました。

この判決伝達の歴史は、まさに「走る」必要性から生まれたのです。裁判所の職員や警備員の制止をかわすため、自然と足の速い若手が選ばれるようになりました。「今でこそ笑い話ですが、当時は本当に全力疾走でした」と、ベテラン弁護士は当時を振り返ります。

弁護団が繰り広げる「走者」選びの舞台裏

「走者」の選出は、意外にも慎重に行われます。28歳の若手弁護士は初めて走者に選ばれた時のことをこう振り返ります。

「判決の2ヶ月前から準備が始まりました。ベテランの先生方が集まる会議で、突然『君、走れるよね?』と声をかけられたんです。正直、プレッシャーでした」

走者に選ばれた若手弁護士は、判決内容が書かれた紙の準備から本番までを任されます。「勝訴」「一部勝訴」「逆転勝訴」など、想定される判決に応じて複数の紙を用意。それぞれに番号を振り、判決直後にベテラン弁護士から指示された番号の紙を掲げるのです。

「練習中に『不当判決』の紙を使っていたら、先輩から『縁起が悪い』と叱られました」なんてエピソードも。本番までの緊張感が伝わってきます。

判決を伝える紙は弁護士の間で「びろーん」と呼ばれている?

判決を伝えるあの紙、実は弁護士の間では「びろーん」や「はた」と呼ばれているのをご存知でしょうか。正式名称は「判決等即報用手持幡(てもちばた)」。しかし、実際の法曹界では「びろーんと広げるから『びろーん』」という、なんとも親しみやすい呼び方が定着しているのです。

東京大学法科大学院の客員教授も務める水口洋介弁護士は「『びろーん』は公害問題や人権問題など、世間の注目度が高い裁判で特によく使われます」と説明します。見る人の記憶に強く残るよう、大きく広げられる紙には、そんな重要な役割が託されているのです。

意外と知らない「びろーん」をめぐる7つの真実

長年、全国ニュースを彩ってきた「びろーん」ですが、その実態については様々な誤解が広がっています。現役弁護士たちの証言から、意外な真実が見えてきました。

  • 1. 手作りが基本
    市販品はなく、達筆な関係者が毛筆で書くのが一般的です。
  • 2. レンタルはNG
    「貸し出しがある」という噂は完全な誤り。各弁護団が個別に準備します。
  • 3. 複数枚を準備
    判決内容に応じて「全面勝訴」「一部勝訴」など、最低でも5~7種類を用意。
  • 4. 緊急時の対応も
    判決が予想外だった場合に備え、白紙の「びろーん」を持参することも。
  • 5. 事前練習は必須
    本番でスムーズに広げられるよう、若手弁護士は必ず練習を重ねます。
  • 6. 走るスピードにも戦略あり
    状況に応じて全力疾走したり、ゆっくり歩いたり。これも重要な判断です。
  • 7. 海外にもある?
    アメリカでは支持者がプラカードを掲げる文化があるなど、国によって様々。

弁護士たちが語る「びろーん」にまつわる秘話

「びろーん」を掲げることになった若手弁護士たちには、思い出深いエピソードがあります。ある弁護士は「緊張のあまり自動ドアにぶつかってしまい、先輩に『それじゃあ判決が伝わらないだろう』と冗談を言われました」と苦笑します。

また別の弁護士は「雨の日は紙が濡れないように工夫が必要です。ビニールで包むと光が反射して報道カメラの映りが悪くなるので、撥水加工された特殊な紙を使うこともあります」と、意外な苦労を明かしてくれました。

そして、「びろーん」を掲げる瞬間は、弁護士としての印象的な思い出になるようです。「長年の裁判で疲れ切っていた原告の方が、『勝訴』の文字を見て涙を流して喜んでくれた時は、この仕事の意味を実感しました」という声も。

法廷の外で繰り広げられるドラマを、あなたも伝えてみませんか?

全国ニュースでおなじみの「びろーん」。その背景には、判決という重要な情報を一刻も早く伝えようとする弁護士たちの情熱と、60年以上の歴史が詰まっていました。

次に裁判のニュースを見たとき、走る若手弁護士の姿に、きっと新しい発見があることでしょう。「なぜ走っているの?」と聞かれたら、あなたも今日知った「びろーん」にまつわる物語を教えてあげてください。

驚きと感動が詰まったこの法廷外のドラマは、きっと誰かの「へぇ〜」という声を引き出すはずです。そして、その声の中に、私たちの司法制度への新しい興味のきっかけが生まれるかもしれません。

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