「あなたの血液型は?」日本人だけが気にする不思議な質問
先輩「新入社員の田中さん、血液型は何型?」
新人「えっと、B型です」
先輩「やっぱりね!B型って個性的な人が多いから」
こんな会話、どこかで聞いたことありませんか?日本では初対面の人と話すときや、合コンの席で盛り上がるネタとして、血液型の話題がよく出てきます。でも、実は血液型で性格を判断するのは、世界的に見るとかなり珍しい文化なのです。
海外では自分の血液型を知らない人も多く、「血液型が何型か」と聞かれても「さあ…」と首をかしげる人がほとんど。献血や手術が必要になったときに初めて調べる、というのが一般的です。これは日本人からするとかなり意外かもしれません。
血液型性格診断が日本で生まれた意外な理由
時は1916年にさかのぼります。当時、ドイツに留学していた日本人医師の原来復(はら きまた)は、ある衝撃的な発見に出会います。それは、ABO式血液型(※1)の発見でした。
ドイツの研究では、「西欧人はA型が多く、動物やアジア人にはB型が多い」という結果が出ていました。この研究結果は、当時の人種差別的な考えと結びつき、「A型の人は優秀で、B型の人は劣っている」という誤った解釈を生み出してしまいました。
しかし、日本ではこの研究を別の方向に発展させました。陸軍が「強い兵隊を作るため」に血液型研究に注目し始めたのです。「どの血液型の兵士が最も優秀か」「犯罪者や優秀な生徒には特定の血液型が多いのか」といった研究が次々と行われました。
これが後の血液型性格診断の始まりとなったのです。特に1927年、古川竹二という研究者が「血液型と気質の研究」という論文を発表したことで、血液型と性格の関係を科学的に研究しようとする動きが本格化しました。
面白いことに、当時の日本では「民族的な差異が少ない」という特徴がありました。そのため、人々を分類する手段として血液型が注目されやすい環境があったのです。これは、宗教や人種による区別が一般的な欧米とは大きく異なる点でした。
※1:ABO式血液型とは、赤血球の表面にある糖タンパク質の違いによって分類される血液型のこと。A型、B型、O型、AB型の4種類があります。1901年にオーストリアの科学者カール・ラントシュタイナーによって発見されました。
血液型性格診断がブームになった1970年代の日本
その後、血液型性格診断は一度は下火になりましたが、1970年代に思わぬ形で復活を遂げます。1971年、能見正比古という人物が『血液型でわかる相性』という本を出版したのです。この本がきっかけとなり、血液型性格診断は爆発的な人気を集めることになりました。
雑誌やテレビで特集が組まれ、芸能人の血液型が話題になり、さらには就職の採用基準にまで使われるようになっていきました。1985年には、さだまさしが「恋愛症候群」で血液型と恋愛感情を歌い上げ、バラクーダーが「演歌・血液ガッタガタ」で血液型性格診断を面白おかしく取り上げるなど、音楽の世界でも血液型がテーマとして扱われるようになりました。
特に興味深いのは、プロ野球界での活用です。1990年、ヤクルトスワローズの監督に就任した野村克也は、選手の血液型にこだわりを持っていました。「性格は野球のプレーに何らかの形で現れてくる」と考え、血液型を考慮して選手を起用していたそうです。
外国人から見た不思議な日本の血液型文化
「たった4つの型で性格を分けるなんて単純すぎない?」
「輸血をしたって性格が変わったりしないでしょう?」
これは、日本の血液型文化を知った外国人の率直な反応です。彼らにとって、血液型と性格を結びつける考え方は理解しがたいものなのです。
実際、血液型を気にする文化は、日本と、その影響を受けた韓国や台湾などの一部のアジア諸国に限られています。欧米では、むしろ「日本人は血液型にこだわり過ぎている」と不思議がられることの方が多いのです。
ある外国人旅行者は、日本滞在中の体験をこう語っています。「合コンで血液型を聞かれて戸惑いました。自分の血液型を知らないと言うと、周りの日本人が信じられないという顔をしていたのが印象的でした」
このような文化の違いは、実は日本社会の特徴と深く関係していると言われています。日本は「一億総中流」という言葉に象徴されるように、比較的均質な社会を形成してきました。そのため、微妙な違いを見出す手段として、血液型性格診断が受け入れられやすかったのではないか、と専門家は分析しています(※2)。
※2:社会学では、これを「カテゴライゼーション(分類)欲求」と呼びます。人々が他者を理解し、関係性を構築する際に、何らかの分類基準を求める心理的傾向のことです。
科学が解き明かす血液型性格診断の真実
血液型性格診断は本当に科学的な根拠があるのでしょうか?これまでに世界中で数多くの研究が行われてきました。その結果は、意外なものでした。
例えば、1980年代に松井豊という研究者が12,418人もの大規模な調査を行いました。これほど多くのデータがあれば、もし血液型と性格に関係があるなら、何らかの傾向が見えるはずです。しかし結果は「血液型と性格の間には関連が見られない」というものでした。
さらに興味深い実験も行われています。ある研究では、A型の人にB型の性格特徴、B型の人にO型の性格特徴というように、わざと血液型を入れ替えた性格診断を見せました。すると、なんと7割の人が「自分の性格とよく合っている」と答えたのです。
このような実験結果は、世界中で確認されています。カナダ、台湾、オーストラリアなど、様々な国で大規模な調査が行われましたが、どの研究でも血液型と性格の関連性は見つかっていません。
バーナム効果が生み出す「当たっている」という錯覚
では、なぜ多くの人が「血液型性格診断は当たっている」と感じてしまうのでしょうか?その秘密は「バーナム効果」(※3)という心理現象にあります。
「几帳面だけど、時々大胆な行動をとることもある」
「人付き合いは得意だが、一人の時間も大切にする」
「表面的には冷静だが、内心では色々な感情を抱えている」
これらの性格描写、どの血液型の特徴だと思いますか?実は、これらはどの血液型にも当てはまるような、一般的な性格描写なのです。しかし私たちは、自分の血液型の特徴として提示されると「本当によく当たっている!」と感じてしまいます。
大村政男という研究者は、面白い実験を行いました。大学生279人に対して、血液型の性格特徴を説明した文章を見せます。ただし、こっそりとA型とO型、B型とAB型の説明を入れ替えておきました。その結果、多くの学生が「自分の血液型の性格特徴がよく当てはまる」と答えたのです。
※3:バーナム効果とは、誰にでも当てはまるような一般的な性格描写を、自分だけに当てはまる特別な説明として受け取ってしまう心理現象のこと。「フリーサイズ効果」とも呼ばれます。
なぜ日本人は血液型性格診断を信じたがるのか
実は、血液型性格診断を信じる背景には、日本人特有の「安心感を求める心理」が隠れています。人間関係において、相手をより深く理解したい、でも傷つけたくない、という繊細な気持ちが働くとき、血液型という「無難な物差し」は便利なツールとなるのです。
山岡重行先生は、このような興味深い分析をしています。「日本では、人種や宗教など、人を分類する明確な基準が少ない。その中で血液型は、誰もが持っていて、しかも本人の選択ではない生まれつきの特徴。だからこそ、人を分類する際の使いやすい指標として定着したのでは」
また、血液型性格診断には「相手を理解したつもり」になれる安心感があります。完全な理解は難しくても、何かしらの「手がかり」を得られた気持ちになれるのです。
血液型性格診断が社会にもたらした思わぬ影響
血液型性格診断は、単なる占いのような娯楽にとどまらず、実は社会に大きな影響を与えてきました。1990年代には、ある幼稚園が園児の上着を血液型で色分けするという出来事がありました。「血液型がわかれば、その子の性格もわかるので指導がしやすい」というのが理由でした。
また、企業の採用面接で「B型は協調性に欠ける」という偏見から不採用になったケースや、プロジェクトチームを血液型で編成した会社の例も報告されています。このような状況に対して、2004年には放送倫理・番組向上機構(BPO)が「血液型で人間の性格が規定されるという見方を助長することのないよう」という異例の声明を出すことになりました。
ブラハラという新しい問題
近年では「ブラハラ」(※4)という言葉も生まれています。「あ、やっぱりB型だね。わがままだもの」「AB型って変わってるよね」といった、血液型を理由に相手を決めつけたり、からかったりする行為を指します。
ある大学生の調査では、約6,660人のうち、血液型を理由に不快な思いをした経験がある人が最も多かったのはB型だったそうです。「合コンで『B型お断り』と言われた」「仕事の相性が悪いと決めつけられた」など、実際の被害も報告されています。
※4:ブラハラとは「ブラッドタイプ・ハラスメント」の略。血液型を理由にした差別や偏見、いじめなどの行為を指す造語です。2000年代以降、社会問題として認識されるようになりました。
血液型性格診断との上手な付き合い方
血液型性格診断は科学的根拠がないとわかっていても、コミュニケーションのきっかけとして使われ続けています。実際、「血液型の話で盛り上がった」「共通点を見つけるきっかけになった」という声も少なくありません。
大切なのは、これを「たかが血液型」と捉えることです。血液型は、赤血球の表面にある特定のタンパク質の違いを示すだけのもの。それは目の色が違うのと同じように、個人の特徴の一つに過ぎません。
最近では、こんな面白いエピソードも。ある会社員は「血液型を話題にするのは、その人のことをもっと知りたいというサインかもしれない」と気づき、「血液型の話が出たら、むしろそれをきっかけに深い会話につなげるようにしている」と語っています。
この記事を読んでくれた皆さんも、ぜひ周りの人に教えてあげてください。「実は日本以外では、血液型で性格を判断する習慣はほとんどないんだよ」と。そこから、人それぞれの個性や価値観について、より深い会話が生まれるかもしれません。
年代 | 出来事 | 影響 |
---|---|---|
1916年 | 原来復がドイツで血液型研究に触れる | 日本での血液型研究の始まり |
1927年 | 古川竹二が「血液型と気質の研究」発表 | 科学的研究の始まり |
1971年 | 能見正比古『血液型でわかる相性』出版 | 一般への普及、ブームの火付け役 |
1990年代 | スポーツ界での活用(野村克也監督など) | 様々な分野への影響拡大 |
2004年 | BPOが警告を発表 | 社会問題としての認識 |
現象 | 説明 | 特徴 |
---|---|---|
バーナム効果 | 一般的な性格描写を自分に当てはまると感じる | 誰にでも当てはまる曖昧な表現が使われる |
分類欲求 | 他者を理解するための指標として利用 | 日本特有の均質な社会背景が影響 |
コミュニケーションツール | 会話のきっかけとして活用 | 気軽に話題にできる共通項目 |
分野 | 具体例 | 問題点 |
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教育 | 園児の上着を血液型で色分け | 不必要な固定観念の植え付け |
就職・採用 | 血液型による採用判断 | 不当な差別 |
人間関係 | ブラハラ(血液型ハラスメント) | 偏見や差別の助長 |
メディア | テレビ番組や雑誌での特集 | 誤った情報の拡散 |